産科クリニック院長による無痛分娩の情報まとめ

無痛分娩

無痛分娩と自然分娩の違い

無痛分娩は痛みなく分娩する、ということですが、自然分娩といわれるいわゆる普通のお産とはどのように違うのでしょうか?

そのためには、自然なお産の流れ、分娩のメカニズム、無痛分娩の仕組みなどを理解する必要があります。

自然分娩の流れ

陣痛からお産までの流れをまとめてみます。

陣痛が来たら、病院に電話して助産師さんと話して下さいと言われることが多いと思いますが、お話や痛みの度合いなどから分娩の進行状況を助産師さんが判断し、病院への来院を促します。

その後、内診や胎児心音モニターなどをつけ、分娩の進み具合を判断します。「子宮の出口がxxcmぐらいで、これくらいの痛みですとあとxx時間ぐらいで生まれるかもしれません」といった今後推測される分娩タイミングを教えてくれる病院もあるかもしれません。

ここから子宮の収縮が本格化して、出口が開いていき、子宮の出口が全部開き赤ちゃんが押し出されると分娩となります。子宮の出口が全部開いた時には、いきんでくださいと言われることが多いでしょう。

陣痛や進み具合に応じた呼吸法や、体の体勢などのアドバイスを受けながら出産に臨みますが、特別なことがなければ点滴のラインを取る、出口が狭くて破けてしまいそうなら会陰切開をするといったこと以外は、ほとんど医療的な介入はありません。

分娩のメカニズム

自然なお産が進むためにはどのような要素が関係しているのでしょうか。

分娩が進むためには、

(A)胎児の大きさや方向
(B)産道の硬さや狭さ
(C)子宮の収縮力やいきみなどの娩出力

の3つの要素が重要です。

端的に言えば (A)x(B)=(C)なら生まれますが、

例えば、骨盤(骨産道)が(A)の胎児より狭ければ(C)がいくらあっても生まれない(「児頭骨盤不均衡」や「児頭骨盤不適合」の診断)ため、帝王切開で出産となります。

無痛分娩ではこのうち(B)産道の硬さや狭さ (C)子宮の収縮力やいきみなどの娩出力に影響を与えます。

無痛分娩の仕組み

では無痛分娩はどのようして痛みを取っているのでしょうか?

無痛分娩と呼ばれる痛みを取る方法は様々なものがありますが、ここでは最も効果があるといわれており、広く欧米でも行われ近年日本でも多く取り入れられている「硬膜外麻酔」および「脊髄くも膜下麻酔」による無痛分娩について説明します。

これらの麻酔ではどちらも背中から針を刺して麻酔をします。

脊髄くも膜下麻酔では脳脊髄液が流れている場所に麻酔薬を投与します。この麻酔は、投与すると針をすぐに抜いてしまいますので2-3時間ほどで効果がなくなります。

硬膜外麻酔では、くも膜下よりも手前の硬膜の外のスペースに麻酔薬を投与しますが、多くの場合、非常に細い硬膜外カテーテルという管を留置します。そうすることでいつでも麻酔薬を追加投与することができますので、分娩時間が長くなってもいつでも麻酔を効かせることが可能になります。

無痛分娩の流れ

「計画無痛分娩」と呼ばれる、日付を決めて分娩誘発を行う場合と、自然に陣痛がきた後に無痛分娩をする場合がありますが、ここでは自然に陣痛が来た場合の説明をします。

まず陣痛が来て病院にきたあと、どれくらいお産が進行しているかを確認します。
その後先に述べた麻酔をしていきます。

麻酔は、お産が進む方にも、進まない方にも作用することが知られています。

進む方向への作用の例:
・痛みがなくなることで緊張がほどけ、骨盤の筋肉が緩み進みやすくなる。
・麻酔の直接の作用で骨盤の筋肉が弛緩しお産が進みやすくなる。

進まない方向への作用の例:
・麻酔の効果で子宮の収縮が弱くなる(諸説ありますが、産科医としては経験的に弱くなっているように感じることが多いのであえてこのように書きます)
・麻酔が強く効くことで妊婦さんがいきむ力がなくなってしまい、お産が進まなくなることがある。

このように麻酔はお産の進行にとってプラスにもマイナスにも働くことから、吸引分娩や鉗子(かんし)分娩を行うことが40%増えると報告されています。
また、場合によっては陣痛促進剤を使用することもありますし、長い時間分娩が停滞することによるトラブルを防ぐ必要があります。

自然分娩とは異なり、無痛分娩はそれ自体が医療介入ですので、産科チームは”いつ麻酔を始めたか”、”分娩の進行具合はどうなのか”、”赤ちゃんに問題はないか”、”分娩時間が長すぎることによる合併症の心配はないか”、”麻酔によるトラブルは出ていないか”などといったことを経時的に観察しながら必要な手を打っていきます。

無痛分娩のまとめ

無痛分娩を行うということは、「医療介入をする」ということを意味します。
これは、自然な生物学的な営みの出産に、介入をするということですので、単に時間を待つのではなくいつまで待つのか、いつ何をするのか、という計画が必要になります。

産科医を含めたチームとしてどのように無痛分娩のお産を進めていくかの明確なイメージをもってお産の進行を積極的に確認し、必要があれば積極的に介入し、進めていくことでトラブルを未然に防いでいくということが求められる高度な分娩様式といえるでしょう。

無痛分娩は経験のある産科医療チームが行うことで非常に快適に安全に行うことができます。

無痛分娩にかかる費用〜保険はきく?

無痛分娩に保険はきかない

無痛分娩は自然分娩の費用同様に基本的に自費になります。非常に特殊なケース、心臓疾患を合併した妊婦さんの出産などの保険適応の検討がされています。

無痛分娩にかかる費用

費用は施設によって様々です。無痛分娩を行うための費用には様々なものがありますので、項目ごとに確認をしたほうが良い場合もあります。
無痛分娩にかかる費用を項目ごとにまとめています。

基本的な費用

・麻酔の費用
無痛分娩では主に硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔が行われますが、施設によっては点滴や、吸入麻酔薬による麻酔を行っているところもありそれぞれ費用が異なる場合がほとんどです。

オプションの費用

・手技や管理の複雑さにおける追加手技料
肥満度が高いなど、麻酔を行う上でリスクが高いと、手技の難易度が上がる場合があります。施設によってリスク水準を設定し、リスクの許容範囲のみの妊婦さんのみに対応したり、難しい妊婦さんには特別の手技料を設定している施設もあります。

・麻酔時間が長時間になった際の管理料
無痛分娩では分娩時間が短くなることも長くなることも状況によりあります。麻酔管理の時間が長くなった際など、別の管理料を設定している施設もあります。

・陣痛促進剤などが必要になった際の費用
陣痛促進剤についてもどのように使用するかは施設の考え方によって異なります。自然分娩においては促進剤を使用する際、費用が掛かることが多いですが、こちらについても無痛分娩費用に含まれている場合と、別途費用が必要になるケースがあります。

・計画無痛分娩にかかわる手技や費用
計画無痛分娩を行う際に前の日から入院する施設が多くあります。この前泊分の料金や手技料がかかる場合があります。

・夜間や休日に無痛分娩になったときの費用
夜間や休日に分娩になった際の加算料金があるのと同様に、別途定めている施設があります。

無痛分娩にかかる費用の具体例

*東京都内で無痛分娩を行っている病院・クリニックの費用を掲載しています。

東京フェリシアレディースクリニック普通分娩費用+10万円
井上レディースクリニック普通分娩費用+約6万円~
愛育病院普通分娩費用+約20万円~
赤枝医院普通分娩費用+7万円
松岡産婦人科クリニック普通分娩費用+30,000円
医療法人社団田中ウィメンズクリニック普通分娩費用+25万円
杉山産婦人科普通分娩費用+10万円
新クリニック58万円〜
東京衛生病院合計約85万円
医療法人準和会東京マザーズクリニック合計約80万円
山王病院合計140万円
山王バースセンター合計130万円~
東京大学医学部附属病院合計約80万円
慶應義塾大学病院普通分娩費用+約12万円
順天堂大学医学部附属順天堂病院普通分娩費用+15万円
東京女子医科大学病院合計約85万円
榊原記念病院産婦人科ホームページ上記載なし
医療法人財団緑生会水口病院ホームページ上記載なし
渡辺産婦人科医院ホームページ上記載なし
社会福祉法人聖母会聖母病院ホームページ上記載なし

なお、東京フェリシアレディースクリニックでは硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔による無痛分娩は、2017年1月現在、計画でも陣痛発来による無痛分娩でも一律10万円で行っています。

*参考文献掲載の取材タイミングによります。費用は改定がされている場合がありますので
実際に医療機関に確かめてください。
(参考文献#1 LiSA Vol.24 No.01 2017-1)